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2007 年 8 月 14 日     カテゴリ:活動報告
渓流が復活した近くでムダな災害復旧工事、公共事業の質の転換を
〜さわやか早苗日記451〜
 松本市の牛伏川は、流域の砂防整備率が約86%という驚異的数字をもつ川だ。全国平均は22%にすぎない。
 牛伏川は信濃川を経て日本海にそそぐ約9kmの河川だが、江戸時代からの濫伐や火災が原因で流域の山が荒廃し、信濃川の土砂堆積の大きな原因になっているとのことで、明治18年(1885)から国直轄で砂防工事が始まった。大正5〜7年(1916〜1918)に完成した141mの中に19の階段状の流路がある砂防施設はフランス式と呼ばれ、文化遺産に指定されている。<写真上>

 百年もの長い歳月と膨大なお金をかけ、何基もの堰堤、コンクリートで流路や川床を固めて来た牛伏川で、2005年秋に土砂災害が起こった。写真上は牛伏川の連岳橋横の、駐車場とトイレのある場所で、支流の普段は水が流れていないような小さな沢で土石流が発生し、トイレが1/3ほど土砂に埋まってしまった。
 もう少し上流のキャンプ場横にある支流の悪沢では、遊歩道の橋が大水と土砂流出で流木が大量にひっかかり、閉塞してしまった。
 これらは、国の災害指定を受け、補助金で砂防災害復旧工事が行なわれていた<写真下左>。災害が起きれば、そこに国からの手厚い補助金がつき、災害が起きた場所の復旧工事だからと、誰もその復旧工事について問題にしない。
 ところが、この災害復旧工事が「曲者、問題ではないか」と、案内役をしてくださった田口康夫氏(渓流保護ネットワーク代表)は、言う。
 つまり、写真のトイレ(左の小さな建物)のある場所は、もともと支流の沢からの扇状地であり、土石流などで土砂が堆積してきた場所、そこにトイレを作った事自体が問題なのである。少し離れた高台にあずまやがあったが、そこは何ともなかったとのことで、もうすこし横にトイレを移動すれば、わざわざこんな立派なコンクリートに石張りの立派な砂防施設を造らなくても、済むのである。それを、わざわざトイレを守るためにお金をたっぷりかけて砂防災害復旧工事を行なうとは、、、いやはや、いくらお金ががあっても足りない、莫大な借金が増えるだけである。

 キャンプ場横にある橋の災害も、遊歩道に架けた木の橋を守るために、災害復旧工事で、悪沢に立派な砂防堰堤を造り、流路をコンクリート石張りで固めてあった。ここも、流木と土砂を取り払って水が流れるようにし、万が一橋が流されるようなことが起きれば、丸太の橋でもかければ十分だ。(10mほど上には、丸太の橋もあった)
 また、すぐ横のキャンプ場も、実は問題である。ここは、県がつくり、松本市に委譲、市が管理しているキャンプ場だ。砂防堰堤の真下の、いかにも土石流が起きそうな場所にあり、万が一、子どもたちなどがキャンプしている時に、集中豪雨があれば、大災害になりかねない。しかし、ここのキャンプ場には、そのような場合を想定した運営マニュアルは無いとのこと。橋を守る大規模なハードの砂防対策工事が行なわれたのに対して、人を守るソフト面での対策は全く遅れている。
 トイレ横の沢の復旧工事現場では、建設会社の皆さんが、暑い中汗を流しながら石を抱えを組んでいた。キャンプ場では松本市の職員の皆さんが、かまどやベンチを直す作業を行なっていた。願わくば、この汗や労苦に誇りが持てるような工事であって欲しいが、それが、矛盾をはらみ借金を増やすばかりの工事であるとは、、、なんだか空しく思えて来る。

 そもそも、砂防整備率86%という工事達成率が恵まれた条件の牛伏川でも、なお、災害が起きるということを、考えなくてはいけない。ハード面の限界と、トイレやキャンプ場の土地利用に問題がなかったかを考えるべきであると、田口康夫氏は指摘する。
 全国の砂防整備率は平均20%、これを莫大なお金を投じ100年かけて倍に上げようとしても、コンクリートの寿命を考えれば、これまで造って来た砂防堰堤などは壊れたり役に立たなることを考えれば、100年経ってもこの整備率は変わりない。
 国や地方自治体の抱えた膨大な借金などで日本の財政が窮地にあることを考えれば、砂防政策の転換と、補助金のあり方を変えることは、急務である。そのネックになっているのが、砂防災害復旧工事であることを、まず、行政や政治家が認識しないといけない。

 砂防工事が減ると、更に公共事業が減り、公共事業に携わっていた建設業者が困ると言われるが、そうではない。<写真下右>は、牛伏川で、田口康夫さんたち自然保護団体と、業者、行政との連携で、2004〜2005年にかけて、従来あった砂防施設を壊して、渓流を復元した場所である。人工の渓流とは思えないほど、自然であり、多くの水生生物が驚くほどの早さで戻って来たという。
 ここは、S58年の災害の災害復旧工事として蛇籠とフトン籠が施行されていたが、上流の牛伏寺ダムで下流への土砂供給がなくなったために河床の洗掘が進み、蛇籠とフトン籠が落ち込み、両側の護岸も引きずられてずり落ちてしまった。そこで県は、砂防堰堤やコンクリート三面張りで流路を固定する工事を行なった。
 これは、河床のこう配の緩いところ、急なところを交互に造り、緩いところは河床に小石を並べ、急な部分は河床の石をコンクリートで固めるという工事であった。しかし、この状況を、田口さんたち自然保護団体は、生態系から見たら大きなマイナスと考え、県建設事務所に工事の目的を尋ねた。「環境に配慮したつもりだが、目的を特定できなかった」という答えであったため、田口さんたちは、支川に現存するイワナが牛伏川にも生息できるような河川環境にするという目的をはっきりさせた改修工事をして欲しいと、要望した。
 当時は田中県政であったからだろうか、県は田口さんたちの要望を理解し、行政、コンサル、市民が会合を重ね、渓流復元の工事が始まった。行政、業者、市民が現場で意見交換したり、美ヶ原の渓流を実際に見に行ったりして模索しながら、工事が行なわれた。
 その工法は、コンクリートの堰堤は、中央部を切り取り、自然石を置いて落差を解消したり、コンクリートの河床には、親石を置いたあと、その間にアーチ型に石を組んで配置したりしていくものだ。石を置く際は、多様な河川環境が出来るよう、高低や前後のずれを持たせながら配置したそうだ。田口さんたちが、殆ど毎日のように現場に足を運び、業者と話し合う中で、工事が進んだとのこと。

 水生生物の復活みならず、河原は植物で覆われるのも早くて、河原に降りていけるよう、田口康夫さんが草を刈って、道を作ってくださってあった。このような見事な渓流復元現場は、全国的にも珍しく、結構視察も多いそうだ。
 ただ、残念なことに、長野県内からの視察は皆無に等しい状況とのこと。なぜが、県土木部はPRを避けているようだ、県議会議員も視に来たのは私が初めてと、田口さんは言う。そういえば、昨年、一昨年の土木委員会でも視に来ていない。

 折しも、田中前知事が参議院議員に当選し、国土交通委員になった。ぜひ、『緑のダム』を提唱して来た民主党議員らと一緒に、牛伏川を視察し、これからの公共事業のあり方のモデルとして、全国に広めて欲しい。次の世代には借金ではなく自然環境を残せるよう、国の補助制度のあり方、公共事業の質を変えるべきだ。


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